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仕事はメジャーでも趣味はマイナーでありたい——四半世紀にわたって描き続ける永井博の「懐かしさ」の哲学

 40年前の1980年。その後、日本音楽シーンに燦然と輝く歴史的名盤となる大滝詠一の「A LONG VACATION」は誕生した。通称"ロンバケ"のジャケットを手掛けたのはイラストレーター 永井博。色鮮やかでクリアな色彩と強い明暗のコントラストで描かれるのはアメリカを連想させる広大な風景や、プールサイド、ロマンチックな夕焼けのグラデーション。アイコニックな画風で描かれる作品の全ては、自らの生まれ故郷には見覚えのない風景のはずなのに、なぜか「懐かしさ」という不思議な印象を鑑賞者に与える。近年は「グラフペーパー(Graphpaper)」や「マニッシュ アローラ(manish arora)」「アクリス(AKRIS)」「ニコアンド(niko and ...)」などとタッグを組んだコラボアイテムが発売されるなど、作品発表の姿勢はイラストだけに止まらない。来月12月には73歳を迎えるという永井。半世紀に渡って第一線で活動する永井は「"古い"って言われたら終わり。仕事はメジャーでも趣味はマイナーでありたい」と話す。そこには幅広い世代を魅了する「懐かしさ」の正体があった。

永井博
 1947年、徳島県生まれ。23歳からグラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートさせ、湯村輝彦の指導の基、28歳でイラストレーターとなる。これまでに雑誌や広告のイラスト、レコードジャケットなど多数のアートワークを発表。1979年にはアーティスト大滝詠一「A LONG VACATION」の装丁デザインを手掛けた。現在も現役で作品を制作し続けており、ブランドとのコラボレーションも積極的に行うなど幅広い年代から支持を集めている。自他共に認める「音楽好き」としても知られており、DJプレイヤーとしても活動する側面も。
公式インスタグラム/公式サイト

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ー今年は世界中にとって特殊な一年になりました。制作にも何か影響はありましたか?

 あんまりなかったかな。夏前から着手していたTHE AOYAMA GRAND HOTELのメインヴィジュアル制作が、ホテルの開業もコロナで遅れたこともあり2〜3ヶ月かかったくらいで。最近は制作ペースも落ち着いてきて、月に2、3本仕事用の絵を描いたら、残りの時間で「自分が描いていて楽しい絵」を制作しています。

ー普段はどれくらいの期間で制作しているんですか?

 普段は5日間くらいですね。若い時は1日で描き上げていました。大滝詠一の「NIAGARA SONG BOOK」のジャケットはそれこそ一晩で描きましたよ。あの頃は月に10点以上制作していたから……。最近はあんまり描けないんですよ。もう72歳のおじいちゃんなので目も悪くなってきてるし、疲れるし……。塗り残しがないか、いつも虫眼鏡で確認してる(笑)。

ー永井さんの作品は、イラストとも絵画とも言えない絶妙な作風が特徴だと思います。

 僕、アルバイトでテレビ大道具の会社で働いていたんです。だから背景画の側面が強いんじゃないかな。絵の描き方もそこで教わりました。「早く描けるから」という理由で大道具業界ではよく用いられる、最初に黒でシルエットを描いてからハイライトを入れていく手法で今も制作しています。だから、椰子の木も元々は真っ黒。そこの上に濃いグリーン、中間色のグリーン、ハイライトになる様な明るいグリーンをのせていくんです。昔「イラストレーション」という雑誌の「HOW TO DRAW」という企画でこの描き方を紹介したら偽物の絵がたくさん出回ってね(笑)。当時はみんな、僕の絵がどうやって描かれているのかわからなかったんでしょうね。

ー作風は昔から一貫していますか?

 実は途中で自分の中では変えたんですよ。例えば、今日も着て来たグラフペーパーとのコラボジャケットにあしらわれている作品は、「もっとシンプルにしよう」と考えたときの絵。80年代初頭くらいかな。売れて、忙殺されて嫌になっちゃって。たまたまアートディレクターをやっている友達から「流行通信」の裏表紙を「なんでもいいから描いてくれ」と頼まれた時に、実験的に少しシンプルな絵を描いてみたんです。でも、次の仕事には繋がらなかった。みんなが求めてくるのは今まで通りの"パキッ"とした絵なので、結局いつもの絵になるんですよ。我ながら粗製濫造になっていましたね。

2020年3月に発売したグラフペーパー×永井博のカプセルコレクション。アイテムは2日間ほどで完売したという。

ー求められるものと描きたいものの乖離はどうやって納得させているんですか?

 お金かな(笑)。冗談の様だけど本当の話で「高額納税しなくちゃいけないから、安い仕事ができないな」と思ってお断りする仕事も増えてきた時があったんです。年収が落ちると予定納税が大変なことになって……。負のスパイラルですよ。お金に余裕がなくなると、自分にも余裕がなくなっていくのがわかってどんどんダメになる。それで真面目に仕事をする様になりました。昔は、仕事で描いたものは販売せず欲しがる友人やクライアントにあげちゃってたんだけど、クライアントワークとして制作した絵でもきちんと描いたものは展覧会で展示してもちゃんと売れるんだよね。そういう当たり前のことをこの長すぎるキャリアで学びながら納得してきました(笑)。

ーご出身は徳島県なんですね。

 高校を卒業する前に受験のために徳島から出て、そのまま帰らず現在。大学は、日芸、武蔵美、文化学院、セツ・モードセミナー全部落ちました。

ーセツ・モードセミナーも受験されていたんですね。

 服がすごい好きだったんです。高校生の頃は、田舎町なのにアイビールック(笑)。そんな人は町に3、4人しかいなくて。本屋に3冊くらいしか入荷しない当時季刊誌だった「MEN'S CLUB」を毎回奪い合っていましたね。

ー今でもよく服を買いますか?

 今はあまり買わないですね。38歳の時に、自宅を横浜に引っ越したことをきっかけに運転免許を取得したんです。車に乗る様になってからコートとか必要じゃないものが増えてきて。今はブルゾンくらいしか着ないので服を買わなくなってしまいました。ちなみに80年代は「ヴェルサーチェ(VERSACE)」ばかり着ていましたね。

ー永井さんがファッションデザイナーになっていた未来もあったかもしれないんですね。

 セツ・モードセミナーの卒業生でもある親戚のおじさんが立ち上げたデザイン事務所に入社して、絵型を描いたりはしていましたけど「何がなんでもファッションデザイナーになるんだ」って感じでは無かったです。

ー受験失敗後はどうされていたんですか?

 東京に住んでるおじさんがデザインの仕事をしていたということもあってそこに居候させてもらいながら、セツ・モードセミナーの土曜講習だけ受けに行っていました。授業料、払ってなかったけど(笑)。面白い人たちとたくさん会えたのは良かった。

ー面白い人たちと言うと?

 ペーター佐藤や河村要助、僕の師匠にあたる湯村輝彦とかですかね。25歳の夏頃に、セツモード・セミナーで仲良くなった彼らと他10人くらいで40日間かけてサンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴ、ニューヨークとめぐるアメリカ旅行をしたんです。そこから帰ってきて、色々なことがガラっと変わりましたね。

ー具体的に何が変わったんですか?

 人に物怖じしなくなりました。それまではあまり、自分のことを自分で説明できないでいたんです。自分の訛りを過剰に気にしてみたりね。それが身を以て「日本ってどこ行っても言葉通じるな!」と感じたんだよね。英語はよくわからなかったけど、日本だったら訛っていたとしてもすぐに伝わるから。帰国してからはタクシーに乗車する時、運転手さんに「やあ!」と言える様になっちゃった(笑)。そういう「一皮剥ける感覚」がありました。

ーニューヨークと言えば有名な美術館やギャラリーなどが集まる街ですよね。

 当時は、ポップアートが好きだったのでもちろん見に行きました。でも実物を見た時に「思ったよりつまらないな」って思っちゃったんです。彫刻家のコンスタンティン・ブランクーシ(Constantin Brâncuşi)も好きだったんですけど、「ブランクーシの部屋」みたいな展示室に作品がいっぱい並べらているのをみて「たくさんあると全然面白くないな、一つでいいのに」と思ってしまったり(笑)。逆に、MoMA(ニューヨーク近代美術館)に展示されているモネの「睡蓮」を見て感激したのは今でもはっきり覚えています。

ー影響を受けたアーティストはいますか?

 この人!と言う人は実はいないんですよ。強いて言うなら描く時に気をつけていることは「デイヴィッド・ホックニー(David Hockney)に似ない様にする」ってことくらいかな(笑)。でも僕、ホックニーのことをしばらくの間全然知らなかったんですよ。仕事でプールサイドの絵を描く必要があった時、湯村さんに「こういう奴がいるんだよ」と教えてもらって。僕自身は、「A LONG VACATION」のジャケットも全然似てないと思うんだけどね。第一、ホックニーはすごいセンスのいい人なわけですし。

ー永井さんと言えば大滝詠一さんの「A LONG VACATION」。

 「ロンバケ」発売時に、産まれてもいないはずの20代の若い子たちから「ロンバケ」というワードが出てくること自体がとっても不思議だよね。僕は音楽が好きで、DJもやるんですけど、イベントの中で若い子たちに話を聞くと「お母さんから”ロンバケ”をもらった」と言う子も多いです。

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